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イントゥ・ザ・ワイルド [Sean Pennショーン・ペン]

 「イントゥ・ザ・ワイルド」を有楽町朝日ホールで観てきました。

映画公式サイト:http://intothewild.jp/top.html

監督・脚本はショーン・ペン。実話に基づく映画です。

2008年アカデミー賞ノミネート(助演男優賞「ハル・ホルブルック」、編集賞)、2008年ゴールデングローブ賞受賞(主題歌賞「エディ・ヴェダー」)2007年ゴッサム賞作品賞受賞(ブレイクスルー演技賞「エミール・ハーシュ」ノミネート)2008年グラミー賞(主題歌賞「エディー・ヴェダー(パールジャム)ノミネート」作品です。

成績優秀で大学を卒業したクリスが、アラスカを目指して旅に出る話です。全てのお金を慈善団体に寄付し、IDカードもクレジットカードも切り刻み、物質社会を極端に毛嫌いし、自然の中で自分の力を試そうとするのです。実際に荒野のアラスカで生活に入るまでにはいろいろ準備のためにあちこちさまよいます。水田で働き気の合った兄貴分に会い、またヒッピーのカップルに何度か旅の中で出会い可愛がってもらったり、16歳の少女との淡い恋を体験し、一人暮らしの老人に養子にならないかと言われたり、またコロラド川をカヤックで下りメキシコへと行ったり、LAではホームレスたちに混ざってその日の宿を提供してもらおうとしますが、夜街をさまよって気が変わり自分のいるべき場所でないと悟り、街を出ようと列車に飛び乗ります。しかし無賃乗車のためにぼこぼこに殴られたりもします。
そして野生植物でどんなものが口にできるかできないか、野生動物を銃で撃ってその後の肉の捌き方などを学び最終目的地でありアラスカの荒野へと出かけていくのです。
ソローの本やトルストイの本を愛読し、日々を日記に書き綴っていきます。
ちょうどうまい具合に捨てられたバスを発見し、そこでアラスカの生活を始めますが、初めは持ってきた米を食べていますがそのうち無くなり狩猟で射止めた小動物を食べるようになります。ヘラジカなども処分しようとしますが全く彼一人の知識と処理の遅さでは歯が立たず、ついにヘラジカはハエやおおかみ、ハゲタカのえさになってしまいます。獲物もいなくなり、もうその生活を切り上げようとアラスカの荒野を出ようとしますが、渡ってきた川が大きな川になっていて渡れず、一時は足を滑らせ死にそうになります。そしてすごすごと戻り、またアラスカの荒野での生活を送るのですが、今度は本を見ながらどれが食べられ食べられないか、木の実や葉を識別し食べ始めます。そしてある日気分が猛烈に悪くなり嘔吐や幻覚が現れ、食べたものが実際は死にもいたる毒の植物だったと知り、そのまま息絶え、その後2週間後にヘラジカ猟に来た人たちによって発見されるのです。

「人生において必要なのは、実際の強さより強いと感じる心だ。一度は自分を試すこと。一度は太古の人間のような環境に身を置くこと。自分の頭と手しか頼れない、過酷な状況に一人で立ち向かうこと」

「北へ行くんだ。ひたすら北へ向かう。僕一人だけの力で。何にも頼りたくない。荒野のど真ん中で。ただ生きるんだ。特別な場所でその瞬間を」

「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合ったときだ」

最後には本当に孤独で寂しいと感じるようになり、アラスカまで来る前に出会った人たちの優しさや、断ち切った家族などを思い出し、「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合ったときだ」と綴ってます。

若いときには誰でもぶつかった根本的な問題を正面から向かい合い、それを実際に行動にしたクリス。共感する部分もあり頼もしくも思いましたが、最後はこんな若さで死ななければならないということに未熟さを感じました。旅に出ていくらでも冒険していいけれど死んでしまっては何もなりません。クリスが放浪しアラスカの生活をしていた1990年~1992年はちょうど私もインド、ネパール、中国、タイ、香港あたりをうろうろしていました。私も何かを模索していた時期です。結局人は一人では生きていけないし、旅に出て人々の優しさを思い知りました。世界は広いしやる気があればできないことは何もないと思ったのもその頃です。私の旅はその後1993年~1995年にまで続き、何となく終止符を打ったのは1995年ですが、その旅の過程には、単純に広い世界を観てみたいという衝動がいつしか旅先でどんな面白い人に出会うんだろうに変わり、その後、人はそれぞれその人の人生を送ってるけど、それではおまえ、自分はどうなのだ!?ということに変わっていきました。

この映画を観ているとやはり旅先での人の出会いがとても貴重なものだと思います。クリスが「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合った時だ」ともう少し早く気づいたなら、死ぬことはなかったのかもなあと、残念に思います。ご冥福を祈ります。合掌。

荒野へ (集英社文庫 ク 15-1)

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  • 作者: ジョン・クラカワー
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  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫
オリジナル・サウンドトラック“イントゥ・ザ・ワイルド”

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  • 出版社/メーカー: BMG JAPAN
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Into the Wild

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森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫)

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  • 作者: H.D. ソロー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/09
  • メディア: 文庫
森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫)

森の生活〈下〉ウォールデン (岩波文庫)

  • 作者: H.D ソロー
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/09
  • メディア: 文庫
人生論 (角川文庫)

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  • 作者: トルストイ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 文庫
人は何で生きるか (トルストイの散歩道)

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  • 作者: レフ トルストイ
  • 出版社/メーカー: あすなろ書房
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 単行本

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duke

志しがピュアなだけに、最後がなんだか悲しいですね。何か大きなものを得て、自分らしい生き方をみつけて欲しかったかなぁ。。。それがどういうものになったか、知りたい気分です。
naonaoさんは5年間も放浪されていたのですね。すごいです。
長い旅がしたいと思いつつ、すっかりいい大人になってしまった自分です。
by duke (2008-08-09 02:18) 

nomame

naonaoさんの分かりやすいレポと
実体験を通じた解釈に
とても感動しました。
ただ個人的には最後に死んでしまう点が躊躇してしまいます。
by nomame (2008-08-09 17:52) 

たいちさん

naonaoさんが、旅行した気持と、重なる所があるのですね。
アカデミー賞ノミネート作品ですので、機会あれば観たいですね。
by たいちさん (2008-08-09 23:13) 

binten

はじめまして
美しい記事ですね。
トラックバックさせてください。
by binten (2008-08-10 11:14) 

naonao

>dukeさん、いつもありがとうございます。
そうですね。このクリスが生きてたならどんな風に生きたのか知りたいところです。私は合計で4年弱、あちこちフラフラしてました。長い旅は行く気になればいつでも行けます。70才代のおばあちゃんの一人旅にも遭遇してるので、私たちだって生きてる限り行けますよ。

>nomameさん、いつもありがとうございます。
たぶん未知の旅に出た人は誰でもクリスの旅のどこかに共感を持つのではないかなあと思いました。
若い人の早すぎる死は本当に残念です。

>たいちさん、いつもありがとうございます。
いい作品でした。是非観てください。

>bintenさん、ありがとうございます。
TB送られていないようです。もう一度試してみてください。

>xml_xslさん、toshiさん、toraneko-toraさん、萬中さん、いつもnice!ありがとうございます。

by naonao (2008-08-11 20:24) 

Mimosa

美しいストーリーの映画なのですね。見に行きたくなりました!
最後に、死んじゃうのはなんとも残念です・・・。
旅先での出会いは、重要ですよね~。一人旅なら、なお更だと思います・・・!
by Mimosa (2008-08-12 02:00) 

naonao

>Mimosaさん、いつもありがとうございます。
旅先での出会いは結構大きいですよね。
いい人に出会えばその土地は断然輝きますものね。
by naonao (2008-08-14 22:01) 

naonao

>くらいふさん、nice!ありがとうございます。
by naonao (2008-08-29 22:17) 

drop ur diet

はじめまして。
偶然映画を知って見に行き、大きな衝撃を受けました。
主人公の若さ故の未熟さ、愚かさ以上に、純粋さ、輝きに、不平不満はあってもぬくぬくと文明社会に生きる自分が恥ずかしくもなりました。
naonaoさんはまだお若いでしょうが、人生の折り返しを過ぎた自分は「やらなくて後悔するよりやって後悔した方がマシ」と感じる事が多く、かと言って居心地のいい今の生活習慣を破る勇気さえありません。
徒然草の一説に「死期はついでを待たず」とありますが、やはり多くの人間はいつか死ぬとは思っていても、まさか自分が明日死ぬとは思えない”自己かわいがり”な生物なのだと感じます。

植村直己さんが生前「すみません」と口にする事が多かったのも経済大国で何の生産にも寄与しない「登山」や「冒険」という行為に少なからず躊躇いを感じていたからでしょうか。

朽ち果てたバスで主人公クリスはまだ世界中を旅してるのかもしれません。

by drop ur diet (2008-09-13 20:33) 

naonao

>drop ur dietさん、こんにちは。
この映画の中のクリスは自分自身の気持ちに素直で、こういったことをしたくてしたくて仕方なくして自ら行動を取り、そして今、私たちの目の前に映画として現れインパクトを与えてるわけですが、人は皆、それぞれ思ったとおりの生き方をしていければこれ以上の幸せはないのだと思います。ただそれは若いからできるということもできます。若さはやはり特権です。
たくさんの国を私自身廻ったのも、それが私のしたいことで若いからできたことでした。今もいくつかのしたいことがありますが、昔のように身軽に動ける状態でなく、年齢を重ねるとしがらみが増えていろんなしたいことを実現することが難しくなります。本当は何にも制約なく、自分の生きたい生き方をいつでも取れればそれほど幸せなことはないですよね。
クリスにしても植村さんにしてもその点では幸せだったと思います。そしてそういう生き方は人々にインパクトを与えるのだと思います。
きっと願っていればやりたいと思えることができる時も来ると思います。
クリスや植村さんは短命だったけど、私たちはまだまだ長生きしてその分たくさんのしたいことをしていけます。
これからですよ!チャンスを見て、したいことをどんどんしていきましょう。一歩踏み出す勇気さえあれば世界は開けます。
年取った分知恵がついてるはずなので、その分賢くやりたいことができます。drop ur dietさん、good luck!! です。
by naonao (2008-09-14 10:23) 

KAY.T

はじめまして。

「イントゥ・ザ・ワイルド」で検索してこちらにたどり着きました。

私のブログでもこの記事を紹介させていただきました。

私も1994年にかつて旅したアラスカ、彼は私の分身か、あるいは私が彼の分身なのか…そんな気がしました。

大自然の中に身を置けば、自分自身のちっぽけさに気づくばかりか、自分の命も自然の一部でしかないと言うことに気づくのですね。

恐らくクリスもそう信じていたから、安心してアラスカの原野に身をゆだねたのかもしれません。

アラスカでなくなった星野道弘さんも同じ考え方だったと記憶しています。彼も1990年から6年間のアラスカの生活、ちょうどクリスが旅をしている間にアラスカで写真を撮影していたんですね。

いろんなところで不思議な因縁を感じます。
by KAY.T (2008-09-21 18:56) 

naonao

>KAY.Tさん、こんばんは。はじめまして。
私はアラスカには行ったことがないのですが、旅行を通してKAY.Tさん同様人間の小ささを感じたし、大自然の驚異とともに人間もその一部だと気づかされました。
星野さんの写真展には行ったことがあります。どれも美しい写真でいつまでも見惚れてました。星野さんが熊に襲われ、アラスカの地で命を落としたニュースを聞いたときとても残念だったのを覚えています。
私もクリスが分身とまでは思えなくてもやはりかなりの部分共感しました。若いときにはこういう時期も必要ですね。この映画によってクリスの存在がもっと多くの人に知れ渡るといいなあと思ってます。

by naonao (2008-09-21 22:42) 

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