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人類最古の哲学~カイエ・ソバージュⅠ [本]

中沢新一の「人類最古の哲学~カイエ・ソバージュⅠ」を読みました。


人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

  • 作者: 中沢 新一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/01/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


先日新聞を読んでいたら、あるユニークな書店を営むオーナーに「あなたのとってのこれぞという本は何?」と質問していました。そしてそのオーナーは中沢新一の「カイエ・ソバージュシリーズ」を挙げていたので、中沢新一なんて何て懐かしいんだろうと思い、今回読んでみることにしました。彼の本は昔何冊か読んだことがあり、特に彼が自らチベット密教を学びにネパールの寺で僧侶に弟子入りし修行をしているので、チベット関連でもちょっと一目置いていた人でした。


そしてこの本ですが、結構面白かったです。


導入に竹取物語(かぐや姫)が、「結婚をしたがらない娘の物語」として、この娘は「燕の巣の中にある子安貝を持ってくれば結婚してもいい」と求婚者に言うのですが、この燕の巣の中にある貝は、アイルランドやフランスのブルターニュ地方にあっても似たような話があり、今でも燕石=燕が巣に運んだ石にはひな鳥の目の病を治し、その石を持っていると安産で、しかも他にも医療効果があると伝えられているとのこと。また燕は昔から死と水の領域に関係し乾燥と湿気を繋ぎ、暗い世界と明るい世界を繋ぐ仲介のような役目を負っていて、燕が家の中に巣を作ることをピタゴラスの時代から忌み嫌われていました。豆も同じように生と死の仲介をした存在として知られ、ピタゴラスは豆もまた大変嫌ったそうです。


そして、世界中に残されている「シンデレラ」の物語。実に450ものバージョン、変形のシンデレラストーリーが世界中にあるらしいのです。よく知られたディズニーの「シンデレラ」は17世紀のペロー童話集に収められ、封建的身分制度が存在する中、社会的な高さと低さを媒介し、現実的に解決できない自分の抱える問題を思考の中だけで解決したものと言っています。


また19世紀に書かれたグリム兄弟の「灰かぶり少女」は民衆から直接聞き取った話として、原シンデレラとも言える存在で、義理の姉たちの足の指やかかとを切り落とし、鳩が目をつぶすという残酷な物語になっていますが、灰かぶり、小鳥、豆、ヘーゼルの木、母親の霊が生者と死者を仲介していると言います。導入での燕石や豆が生と死二つの世界を媒介しているようにです。


ポルトガル民話には「カマド猫」という話があり、魔法の力で魚になった王子と水の中に入った少女が結婚する=族外婚を通じて死者と異界のものとのコミニュケーションの回路を開いた物語になっています。


そして、南方熊楠が見つけた9世紀の中国「支那書」には「壮族のシンデレラ」があり、美しい魚とまるで恋人同士のように親しかった葉限(シンデレラ)は継母にこの魚を殺され食べられてしまうのですが、残された魚の骨を大切に扱うことで幸運をつかむ物語になっています。アイヌやアメリカンインディアンの儀式にも、魚や獣の骨をきれいに取って水に返す、森に返すといった儀式があるらしく、この物語にもつながるものと言っています。


また19世紀の「アルゴンキン伝説集」の「見えない人」という物語はミクマク・インディアンによるシンデレラですが、シンデレラの物語を批評した新しいシンデレラの話となっています。かまどのそばにいて灰を浴びているだけでなく、焼けた薪や炭を押し当てられてボロボロの肌へと醜くなっているこのシンデレラ。王子である「見えない人」の前でもこのシンデレラはやけどの跡を残した醜いままの姿です。ミクマク・インディアンはヨーロッパの王子さまは外見ばかりで判断し精神性が低く、「見えない人」が手に入れようとしたのは美しい魂であって美しく着飾ったシンデレラではないと批判します。


世界中のシンデレラストーリー、面白いです。この本には元となっている話も載っています。


そして、シンデレラが残していった「片方の靴」の意味を読み解いています。古代ギリシャのオイディプス神話に、片足のくるぶしが不自由で自由に歩き回れないオイディプスが出てきます。彼は父を殺し、母と近親相姦、盲目となり、死の放浪に出るのですが、オイディプスには跛行のイメージがあり、死者の領域とコミュニケーションをする能力を持ったことで跛行を余儀なくされた存在とのこと。そしてオイディプス=シンデレラであり、実はシンデレラは死の世界と生の世界を繋ぐシャーマン的存在と言っています。


実際ロシアからトルコ・ギリシャのシンデレラ物語には「毛皮むすめ」というのがあり、オイディプスの近親相姦が形を変えて出てきます。


シンデレラはオイディプス神話であり、シャーマンの物語だったということですね。


そして、最後に神話と現実をテーマにしています。


インドの古代宗教「リグ・ヴェーダ」に「ソーマ」という謎の液体飲料が出てきますが、「ソーマ」とは一体何なのか、ずっとわからなかった時代が続いたそうです。でもそれはベニテングタケというキノコで、口にすると意識が高揚し幻覚作用を起こすとのこと。宗教を行うバラモンが口にし、体を通して尿として出したものを人々がまた飲むという儀式らしいのですが、これはシベリア北東部のエスキモーたちがベニテングタケを口にし尿を出してその尿で体を洗い食器を洗ったりしているのと共通しているといいます。


カムチャッカ半島のイテリメン族の「チェリクトフとベニテングタケ娘」という神話では、ベニテングタケのもたらす幻覚作用の誘惑はほどほどに付き合うにはいい効果を発揮するが、はまり込みすぎると危険であることを教えています。


神話は現実と幻覚の間に立ち、2つを仲介するのですが、幻覚の世界に埋没することの危険、あまりにも踏み込みすぎると人間は宇宙の中でバランス失ってしまう、何ももたらされなくなると言っています。


神話に限らず、小説を読みふけったり、映画を観たり、ドラマを観たり、あまりにものめり込んでしまえば、社会現象にまでなったあまちゃんロスとか、五代ロスとかになりうるということかな~と思いました。夢中になるのはいいけれど、現実世界とのバランスがやはり大切ですね。



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naonao

>nice!をいただき、皆様ありがとうございます。
by naonao (2018-03-04 11:22) 

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