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みみずくは黄昏に飛び立つ、探検家とペネロペちゃん、力をぬいて、ファクトフルネス [本]

最近読んでいた本です。


みみずくは黄昏に飛びたつ: 川上未映子 訊く/村上春樹 語る (新潮文庫)

みみずくは黄昏に飛びたつ: 川上未映子 訊く/村上春樹 語る (新潮文庫)

  • 作者: 川上 未映子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: 文庫

村上春樹と10代のころから村上春樹のファンだったという川上未映子が村上春樹にインタビュー。インタビュアーの川上さんが、細かいところまでよく覚えていて脱帽です。村上春樹本人が忘れてしまっているようなことまでも彼女はすらすらと言い、村上春樹の著作の色々をよく記憶している。いちファンの私はというと、すっかり主人公の名前も忘れ、ストーリー展開すら忘れ、好きな本は大まかな内容は覚えていても、それ以上は覚えていないし、それほど好きでなかった本に至っては今となってはストーリーすら曖昧で、とても彼女の足元にも及ばないなあと情けなくなりました。それでもこのインタビューを通して、いくつかのことが発見できてよかったです。


キーワード、私の心に響いたのはこんなこと。

「リズム」「壁抜け」「物語をくぐらせる」「必要な時に抽斗がさっと開けられること」「地下2階に降りて行く」「洞窟スタイル」「時間をおくこと、待つこと」「文体が大切」「巫女的なもの、霊媒というか電気を受けやすい体質、メッセージを受け取る能力」「不思議なことが起きる、僕の力が及ばないところを場の力がうまく処理してくれる」「文章はリアリズム、でも物語は非リアリズム」「世界の神話が集合無意識として繋がって地下部分に訴えている」「乖離、落差みたいなものの中に自分の影が存在し、それは大事な意味を持つ。乖離を知ることが自分の影を見る手助けになるのでは」「人を頼るより自分の勘を大事にした方が物事がうまくいく」「物語はそう簡単にくたばらない」


私が好きなのは、彼の「文章、文体の良さ」であり、「リズム」であり、「物語が非リアリズム」であり「わけのわからないものがどんどん登場してきて」、またなるべく「わかりやすく」文章を書こうと努力しているという彼の意図があることを知り、ああ、だからなのだと合点がいきました。また「ねじまき鳥クロニカル」「アンダーグラウンド」くらいから悪を取り扱うようになったらしく、それ以前の作品「羊をめぐる冒険」や「ダンスダンスダンス」「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」が好きな私は、あからさまに悪が出てこない作品だからこれら作品が好きなのかもしれないなあと思ったのでした。文章も物語もリアリズムの「ノルウェーの森」は好きというほど好きでないのも、この著者に対しては物語に非リアリズムを期待する私がいるからそうなのだと思いました。私はいつも精神世界のようなものを求めていた過去があり、この著者はリアリティーを追及すると物語自体は非リアリズムになると言っていて、その点がうまく合致したのだと思いました。しかも読みやすいとなれば尚更ファンになってしまいます。


多くの作家が良く言うように「自分の力の及ばない力によって」書かされているような発言もあり、「巫女的なもの、霊媒というか電気を受けやすい体質」こそが作家になるもっとも大切なものだとも言っています。「思い切って考えずに行っちゃうと何とかなるもんなのです」というのも心に響きました。これだけ文章書くことが好きで、それをやれることがこの上なく幸せで、何度も何度も原稿を書きなおして、やれることはしっかりやり、しかもずっと売れるとは夢にも思っているわけでもなく、肩から力が抜けていて、謙虚で、規則正しい生活を送っている著者。なるほどこういう著者だからこそ、こんなにも長く作家として成功しているのだなあと思いました。村上春樹の語り口も何だか小説の言葉と同じ感じなのだなあと妙に感動しました。



探検家とペネロペちゃん

探検家とペネロペちゃん

  • 作者: 角幡 唯介
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/10/24
  • メディア: 単行本


角幡さんのエッセイ。ペネロペちゃんとは実の娘あおちゃんのこと。一緒にいるとあまりにも可愛いのでまるでペネロペ・クルスといるみたいに周りの注目を浴びすぎるところからこの本では娘さんのことをそう読んでいる。そして子供の誕生によって感じることが劇的に変わってしまったこと、子供を産むということは自分の探検、冒険以上にすごい探検、冒険であるだろうこと、子供が言葉を習得して成長することもやはりすごい冒険であろうこと、子供がいるということは自分の老いの恐怖から目を背けることができ、もう一人の自分の成長を楽しみにすること…等、親になって劇的に考え方が変わってしまった彼の子供誕生以来から、今に至るまでのおおよその軌跡を綴っています。引越しやら冒険の合間に家族に連絡を取ろうと努力することやら、独身時に家庭を持った人に対してバカにしていた様々なことを自分でもやってしまっていることなど、いろいろ…。

やっぱり自分の子供はみんな可愛いのだろうなあと思います。まあ親ばか丸出しですが、角幡さんの筆にかかるといろいろ考えさせられます。世間一般から見ても絶対的に可愛いと言い切る角幡さんの娘ペネロペちゃん。写真を是非見てみたいです。どんな風にこれから大きくなるのかも楽しみです。


力をぬいて

力をぬいて

  • 作者: 銀色 夏生
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/11/22
  • メディア: 単行本


銀色夏生の本。私はつれづれノートの大ファンですが、この本はつれづれノートの日常の出来事と共にいつも書かれる銀色さんの色んな思考、指摘がかかれていますが、その思考、指摘を一堂にギュッと集めたみたいな本です。言い換えれば、日常の出来事がないつれづれノートみたいな感じ。「10年くらい前から本が少しずつ売れなくなった」ことから、子育ても一段落したし、これから将来は宮崎に戻る選択をするつもりらしい。「死ぬまで続けられる何か、自分だけでなれる幸福を見つけなければ」と思い立ち、今、自分が本当に思っていること、書いていて楽しいこと、ワクワクすることを書いたというこの本。「外的要因に左右されない個人的幸福の試み」と最初この本のタイトルにしようと思ったらしく、でもそれは止め「力をぬいて」とし、「外的要因に左右されない~」を模索し、その道は今後も続くという。


印象的だったのは、アンドレ・ブルトンの言葉の引用。「生と死、現実と想像、過去と未来、伝達可能なものと伝達不可能なもの、高いものと低いものとか、そこから見るともはや矛盾したものに感じられなくなる精神の一点がかならずや存在するはずである」という言葉。彼女はこの一点を考えるとワクワクして、怖いものがなくなったという。矛盾する2つのものが同じものに見える一点を探し、どんどんふたつのものをひとつにしていけば最後にすべてが一つになるところにいきつき、つまりひとつが全てで全てはひとつという。何か面白いなと思った。他の考え方は長年つれづれノートを読んできているので、慣れ親しんだ彼女の考え方でした。



FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2019/01/11
  • メディア: 単行本

多くの人が間違った思い込みをしているという。

「世界は分断されている」という思い込み。「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み。「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み。「危険でないことを恐ろしい」と思ってしまう思い込み。「目の前の数字が一番重要だ」という思い込み。「一つの例がすべてに当てはまる」という思い込み。「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み。「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み。「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み。「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み。


だから簡単なクイズにも正解できないという。そのクイズとは。以下その一部を載せました。


1・現在低所得国に暮らす女子の何割が初等教育を修了するでしょう?

  A・20% B・40% C・60%

2・世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?

  A・低所得国 B・中所得国 C・高所得国

3・世界人口のうち極度の貧困にある人の割合は過去20年でどう変わったでしょう?

  A・約2倍になった B・あまり変わっていない C・半分になった

4・世界の平均の寿命は現在何歳でしょう?

  A・50歳 B・60歳 C・70歳

5・15歳未満の子供たちは現在世界に約20億人います。国連の予想によると2100年に子供の数は約何人になるでしょう

  A・40億人 B・30億人 C・20億人

6・いくらかでも電気が使える人は、世界にどれだけいるでしょうか?

  A・20% B・50% C・80%

(答えは2のB以外、すべてCです)


人はドラマチックな物語が好きなので、ショッキングなニュースに飛びつきその情報をアップデートしないまま持ち続けます。アフリカやアジアの貧しい子供たちのことも10年、20年経てば当然変わって豊かになっているのに昔の貧しいままだと思い込んでいます。この本を読んで、確かにそうだなと思いました。20年以上前に行ったインドや中国。私が見てきたものは既に過去のものとなり、貧しかった彼らも裕福になっているはずです。少しずつ少しずつ世界はいい方向へと向かっていることをこの本は示唆します。色んな思い込みによって正確にものを見なくなっているため、正しいデータを元に世界を正しく理解しようというのがこの本でした。どの国も貧しいところから豊かになり、今既に豊かである先進国であっても昔は貧しかった。人々の考え方も経済の発展とともに変わっていく、そういう基本的なことをも思い出させてくれます。

著者はスウェーデン生まれでスウェーデンとインドで医学を学び、医者になり、世界中を飛び回っていろんな国で仕事をしてきたため、その経験談も交えています。執筆中に亡くなってしまった後も共同で執筆していた息子夫婦が後を継いで完成させた本だということです。


世界はまだまだ悲惨だと思っていた、いやそう思い込んでいた私は、この本によって実は昔と比べたらそうではないことを知り、結構気分が晴れました。あまり楽観的すぎても仕方ないですが、ひどく悲観的過ぎていた認識を改めることができました。


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