小さいおうち [日本映画 賞受賞]
映画「小さいおうち」を観ました。
直木賞を受賞した中島京子の作品の映画化。山田洋次監督作品。ベルリン国際映画祭で黒木華が最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞して話題になった映画でもあります。
山田洋次監督が去年年末に今年年末に公開する映画「母と暮らせば」の制作発表を行いました。この映画に出演するのは、吉永小百合、二宮和也、黒木華で、このニュースを知り早く「小さなおうち」を観ないと、と思いました(新しい映画は今から楽しみです。ニノが三谷幸喜のドラマ、アガサクリスティの《オリエント急行殺人事件》に今日明日出るというのもメチャクチャ楽しみですが、山田監督の映画への出演もすごく期待してます)
今はすっかりおばあさんになったタキ(倍賞千恵子)が、自分が若かりし頃(若い時代は黒木華)、昭和初期から戦時中まで女中として仕えた平井家での生活を回想する物語。平井家の子供の恭一が小児麻痺となり毎日病院に連れていきマッサージを受けさせたことや、奥さん(松たか子)と夫の会社の部下板倉(吉岡秀隆)との恋が戦争によって終わってしまったことを回想します。またタキが亡くなったあと、タキの親戚の大学生(妻夫木聡)が今は亡き板倉の絵の回顧展を知り、そこから平井家の長男恭一に会いに行きます。
時代は昭和10年から徐々に戦争が激しくなる時代です。当時としてはとってもモダンだったろうなと思わせる、赤い三角屋根の小さなおうちには、ステンドグラス風の色ガラスも入っていて、二階屋根には洋風の飛び出した飾り窓風のオシャレな窓まであります。紅茶に角砂糖2つ入れたり、カルピスを飲んだり、とんかつを食べたり、御用聞きがきてみりんを持ってきてもらったりと、ちょっと裕福な東京に住む平井家に仕えた女中タキ。昔の古き良き時代の、おしとやかでありつつテキパキとした若々しい女中さんを、黒木華さんがうまく演じていました。「クラシックな顔立ち」が決め手となりこの役を山田監督がオファーしたらしいのですが、昭和初期の雰囲気に本当に良くあっていて彼女は素晴らしかったです。ドラマ「リーガルハイ」や映画「銀の匙」で黒木華さんの演技は観ていましたが、この映画での彼女の演技は、群を抜いていました。
奥さんと板倉という青年の恋は、板倉に召集令状が来て彼が戦場に向かい、その間東京大空襲で奥さんと旦那さんが亡くなったことで幕切れとなりました。板倉は戦争から生きて戻りその後結婚しなかったことは後からわかります。また板倉が東京を離れる前に、奥さんが家を出て板倉に会いに行こうとしたとき、タキは必死になって止め、代わりに手紙を書いてくださいとお願いするのですが、すでに板倉が家を出てしまった後でその手紙が渡せぬままタキがずっと死ぬまで持っているのでした。その手紙を親戚の大学生が平井家の息子恭一に後になって渡すことで、奥さんと板倉の恋が確実に存在したことを印象づけていました。
人の道に外れた恋はそれだけでも苦しいけれど、時代が戦争中であるなら尚更、しかも人の恋の橋渡しを最後の最後のときうまくできなかったタキの気持ちを考えると余計に苦しかった。そしてタキ本人もまた板倉に淡い恋心を抱いていたのではないか?と思うとますます泣ける映画でした。そして戦争をしてはいけないなと強く思いました。家のセットがちょっとメルヘンチックで可愛らしかったのも二重丸です。役者さんたちも揃っていて言うことない映画でした(北の国からの純くん=吉岡秀隆くんと蛍ちゃん=中嶋朋子ちゃんが出てたのも何か良かったです)お勧めです。
蜩ノ記 [日本映画 賞受賞]
一ツ橋ホールで「蜩ノ記」を観てきました。
スポンサーがとんかつの和幸でひれかつサンドと飲み物も頂いてきました。
映画公式サイト:http://higurashinoki.jp/
直木賞を受賞した葉室麟の小説を映画化。
藩主の側室(寺島しのぶ)と不義密通をしたと疑いをかけられた奉行の秋谷(役所広司)は10年後には切腹せよと命じられ幽閉されている。そこへ庄三郎(岡田准一)が遣わされ監視役となるも、秋谷と秋谷の家族(妻=原田美枝子、長女=堀北真紀、長男)と共に暮らすうち、秋谷が事件を起こしたとは思えなくなり、事件の真相を探り始める。そして真実は不義密通などないことがわかり、秋山が淡々と毎日編纂していた家譜の謎を探ると当時側室と争っていた藩主の正妻の出生こそが実は血筋を偽っていて商人の娘を正妻に仕立てたという事実が浮き彫りになり、それは家老も一枚かんでいることがわかった。そのため家老は、切腹を取り消すこととその正室の血筋の書いた文書を交換条件にするのだが、後世に残すものは真実のみという信念や藩主に忠義を誓っていることから、秋谷はこの条件を飲まずにそのまま切腹へと向かう・・・。
四季折々の山里の風景。日本の美。それらが映画のところどころに映され、とっても美しかったです。そして一対一で心情を述べるシーンも多く、シーンと静まり返った音のない世界やいい意味での間があり、心が洗い流されるような清らかな映画でした。登場人物たちの背筋のシャキッと伸びるような暮らしぶりが観てるこちらを正し、物の通りを通す秋谷や庄三郎、秋谷の息子の友人らの姿勢が、とても心に沁みました。非情で理不尽なことがまかり通る中でも、誰にも後ろ指刺されない正々堂々とした生き方は胸を打ちます。最後には淡々と身支度を整えて、家族に別れをし、迎えの者に従って切腹するために家を出る秋谷を観ていて、涙が止まりませんでした。とにかく佇まいが美しくて、自分もこうありたいなと思いました。
この映画は黒沢映画で助監督を務めた小泉尭史監督の作品で、ヴェネチア国際映画祭でこの監督の初監督した「雨あがる」が緑の獅子賞を獲得しているとかで、この「雨あがる」も観てみたいなあと思いました。
永遠の0 [日本映画 賞受賞]
東京国際フォーラムで「永遠の0」を舞台挨拶つきで観てきました。5000人もの人たちが集まりました。
公式映画サイト:http://www.eienno-zero.jp/index.html
出演者の岡田准一(V6)、三浦春馬、井上真央、濱田岳、新井浩文、染谷将太、三浦貴大、上田竜也(KAT-TUN)、山崎貴監督がレッドカーペットを歩き、そこで少し挨拶をしてフォトセッション。その様子を着席してる観客がスクリーンで観てました。その後出演者たちが舞台に移動し、舞台挨拶。特に濱田岳のあいさつがとっても可愛らしく面白かったです。出演者も仲がいい感じで楽しい舞台挨拶でした。
2時間30分の映画も含めて6時半から始まったイベントは10時まで続き、長いイベントでした。映画が終わった後も岡田、三浦、井上、山崎監督が残っていて、客席から原作者の百田尚樹も登場し、さらに挨拶があり温かな拍手とスタンディングオベーションもあって会場はいい雰囲気で終わりました。サザンの主題歌「蛍」も良かったし(映画を観て書き下ろしたものなのでこの映画にピッタリすぎ)、肝心の映画もとっても良かったです。
百田尚樹のベストセラーの同名の小説を映画化。監督は「ALWAYS 三丁目の夕日」の山崎貴監督。自分の祖父だと思っていた人が血のつながりがないことがわかり、血のつながっている本当の祖父(岡田准一)はゼロ戦の腕のいいパイロットであることを知る孫(三浦春馬)。たくさんの祖父を知っている生き残りたちに会い、祖父の宮部が妻(井上真央)や幼子を守るために生きて戻ることを強く願っていたこと、周りにも生きるように諭していたことを知ります。それは片や意気地なしであり、臆病者であると言われた祖父、宮部でもありました・・・。
「私ががんで半年の命と言われてるのにまだ生きてるのは、宮部さんのことを話すために生かされていたのだとわかりました」という宮部の戦友が宮部の孫に語る言葉。「私は生きて帰ります。たとえ手がなくなっても足がなくなっても。生きて帰らなければ生まれ変わってでもあなたのもとに戻ってきます」という宮部が妻に語る言葉。「生きて帰るんだ」と何度も宮部が仲間に絶叫する魂の言葉・・・。この映画にはたくさんの素晴らしいシーンとともに数珠玉の言葉があり、胸にジーンと来ました。
原作を読んでいないのですが、原作を読んでこの映画を観た友人は原作のほうが断然いいと言います。あれほど家族のもとに生きて戻ることに固執していた宮部が最後に特攻を志願し、自ら戻らぬ人となってしまったのは、一体なぜなのか?映画では少し解せなかったので、原作をじっくり読んでみたいです。映画の中では自分の部下たちが次々と特攻隊員として旅立ち戻らぬ人となって宮部の感情が麻痺し、廃人一歩手前であることを匂わせてはいましたが・・・。また飛ぶ直前に宮部がゼロ戦の不調を見抜き、そのゼロ戦が敵地まで到着できない、つまりは生き残れる可能性があることを知っていてなお、そのゼロ戦を自分を慕って自分をかばってかつて怪我を負った後輩に譲り、自分は敵地まで行けるゼロ戦に自ら乗り込んでしまったのか?そして自分で妻や子供を守らず、その後輩に妻や子供をお願いしたのか?その部分の真相が知りたいです。
特攻隊という酷いことを二度と繰り返してはいけないと強く思いました。そして生きたくても生きられなかった多くの人たちがいるということを、私たちはもっと知るべきだと思いました。
沈まぬ太陽 [日本映画 賞受賞]
東京国際フォーラムで「沈まぬ太陽」を観て来ました。
映画公式サイト:http://www.shizumanu-taiyo.jp/
舞台挨拶つきでした。司会の伊藤さとり、監督の若松節朗、俳優の石坂浩二、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香が舞台に登場。また主演の渡辺謙はハリウッド映画撮影のためにロスからスクリーンで登場。
何年もかけて作られた作品だったようで、「今やっとできたということにはとても意味がある」というような石坂浩二のコメントがありました。チベットには埋蔵経典という考え方があり、必要な時にその経典が発見され人々に広まるという考え方があるのですが、まさにその考え方で、この映画が今の時代に必要とされているといったコメントで印象的でした。
また「今困難なことが立ちはだかっていますが、この映画が明日へのかすかな光となれば・・・」という渡辺謙のコメントがありました。渡辺謙の挨拶は特に、足を運んだ多くの客にねぎらいの言葉をたくさんかけ、好感度が抜群に良かったです。
そして驚いたことに、豪華なゲストだけでもびっくりなのに、近くの席には民主党の海江田万里が座ってました。テレビで見るより細身!でダンディでした。
この作品は「白い巨塔」「華麗なる一族」「不毛世帯」「大地の子」などを書いている山崎豊子の原作。映画は3時間22分と長く、そのため10分間のインターミッションが入ります。長かったけれど、ストーリー展開が良く、長さを全く感じさせませんでした。素晴らしい作品でした。
高度成長時代の日本のエアライン会社を舞台に、その中で労働組合の委員長をしている恩地(渡辺謙)とその補佐をしてる行天(三浦友和)。いつしか二人は違う道を歩み始めます。恩地は罰則的な人事でパキスタンのカラチ、イランのテヘラン、ケニアのナイロビへ左遷。一方エリートコースと引き換えに、組合の分裂を画策する行天。
恩地を妻(鈴木京香)が何も言わずに支え続け、行天の愛人(松雪泰子)がスパイ行動的なことをしてまで行天を支え続けます。
御巣鷹山の日航事件のようなジャンボジェット機墜落の大惨事が起き、新会長に国見(石坂浩二)がつくようになると、恩地は抜擢され国見のすぐ下で働き始めます。様々な汚職が暴露され、あるものはそれらを暴露して自殺し、あるものは職を追われ、あるものは地検に同行を求められます・・・。
渡辺謙が演じる恩地は、会社のどんな理不尽な人事に対しても服従し、会社を決して辞めない。そして曲がったことが大嫌い。裏世界の汚い取引をすることもなく、そのため昇進もままならない。それでも自分の意志を貫いていく。こういう生き方は格好いいです。
そして世の中にはきっとこういう生き方を選択する人が少なからずいるんだろうな、と思います。
最後にまた、自分が希望していた事故に遭った遺族会の面倒を見る役まわりにまわしてもらうはずだったのに、ナイロビへの転勤を命ぜられます。
どこまでも理不尽。でも恩地は恩地なりの境地を見出していきます・・・・。
1960年代から現代に続く一人の男の生き様を描くこの作品は、日本の時代にリンクして、こんな人の人生もきっとあったんだろうなあと思わせました。その時、その場所に、同じような立場にあったら私も世間の人たちと同じ反応を示したかもしれませんが、少なくとも今の私が疑問なのは、アメリカ各地やヨーロッパ各地の転勤は喜ばしく、栄転であるのに、どうしてカラチやテヘラン、ナイロビなど第三世界への転勤は罰則的で人から蔑まされ、左遷ということになるのか、そこのところが不愉快だったし、わからなかったです。もちろん、第三世界は快適な先進国に比べたら生活するにも不便極まりないでしょう。だからこそ罰則的なのかもしれません。しかしそういうところでやっていける人間こそ、尊敬、賞賛に値すべき人間なのに世間での評価は低いなんて、やはり世間の評価というのはどんなに当てにならないんだろうと思ってしまいました。
私は海外で生活したことはなく、単なる旅人でありましたが、むしろ先進諸国よりも発展途上国のような国々を回っていて学ぶことが多かったです。あんまり発展途上国のような第三世界をバカにしてほしくないなあと。好き嫌いはあるでしょうが、どこの国にもいいところ、悪いところがあり、優劣なんてつけないで欲しいなあ・・・と思ってしまいました。
それにしても恩地の生き方、格好良かったです。自分ではできない生き方かもしれないけれど、こういう生き方は人々に感動を与えます。原作も読んでみたいと思いました。