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水源 [本]

水源(アイン・ランド著)を読みました。

水源―The Fountainhead

水源―The Fountainhead

  • 作者: アイン・ランド
  • 出版社/メーカー: ビジネス社
  • 発売日: 2004/07/08
  • メディア: 単行本

NHKの実践ビジネス英語を普段聞いているのですが、その講師である杉田敏先生が何年か前のテキストに「アイン・ランドの本にとても影響を受けた」と書いてあるのを読みずっと読みたいなあと思っていました。

ちょっと古いデータですが、1998年のアメリカ出版社のランダムハウスが実施した20世紀の小説ベスト100の1位、2位、7位、8位をこのアイン・ランドの本が占め、2位にこの「水源」が入っています。(ちなみに1位は「肩をすくめるアトラス」)アメリカの教養ある人なら誰しもアイン・ランドの本を読んでいて、彼女のその本はいろんな人に影響を及ぼし、アイン・ランドを熱狂的に愛している人たちもかなりいるとのことです。

さて、1000ページ以上もある「水源」の感想ですが…。

久々の長編小説。まずは面白かったです。

建築家ハワード・ロークの信念を貫いた生き様を描く物語であり、そこには恋愛物語もあり(でもかなりロークとドミニクの恋は不可解でしたけれど)、ある種の思想が書かれていて、物語もいろんな展開をするので結構楽しく読み終えることができました。

自己中心主義者であるか、あるいはセコハン人間(セコンド・ハンド人間=中古人間)であるか?これが主要なテーマでもありました。

ロークは自分の信念を曲げずそのため、世間の風当たりをまともに受けてしまいうまく立ち回れません。大学は中退になり、師事した建築家ヘンリー・キャメロンはそのあまりの独創性を世間に認められずかなり落ち目です。それでもキャメロンに師事し続けます。そして友人キーティングの誘いにも乗らず、生活を安定させる道を歩みません。そして工事現場で働くようなこともします。でも最後には信念を貫いたおかげで、全てのものを手にするのです。彼が法廷で語っている言葉を借りれば、彼は自己中心主義者の仲間の部類に入る人間です。

一方、そんなロークに比べ、絶えず優等生で周りの期待どおりに行動し社会人になってからも大手の企業で成功を収めるピーター・キーティング。成功のためなら今まで付き合って自分が一番ホッとできるキャサリンとの結婚の約束も反故にし、突然言い寄ってきた美女のドミニクと電撃的に結婚もしてしまいます。従来あるものをうまく融合させることには長けていますが、オリジナリティがありません。いろんなところでオリジナリティあるロークの設計図を基本に使っては、自己流にまたアレンジしています。ルークはこういった人たちのことをセコハン人間(セコンド・ハンド人間=中古人間)と言っています。そして悲しいかなキーティングは最後には人生がうまくいかなくなっていきます。

「創造的仕事、たった一人で考え働く自己中心主義者に対し、誰かに依存し、強奪、搾取、支配を生むセコハン人間」「創造者が否定され、抑圧され、迫害され、搾取されつつも、前に前に進み自らの活力を人類に与え、進歩させてきたのに対し、セコハン人間は人類の進歩に何の貢献もしてきませんでした」…ロークは貧しい人たちのための公共住宅を作ることが夢であり、そのためならお金も要らない、しかし完全に自分の思い描いたもので作りたいという願っていました。しかしその公共住宅を作る話は当時成功を収めていたキーティングへと依頼が来ます。キーティングは低予算でそんな公共住宅を作ることができません。いつもゴージャスなお金をふんだんに使った建物を設計していたからです。そしてキーティングはロークにやらないかと話を持ち掛けます。ロークにしたら願ったり叶ったりです。無報酬でも引き受けたい仕事なのです。ロークはキーティングに約束させます。自分の設計に一切付け足したり削ったりしないこと。しかし、実際にはキーティングの事務所ではロークの設計に余計なものをつけてしまうのです。そしてその結果、自分の作品ではないものになってしまったと思ったロークはその建物に火をつけ燃やします。そして法廷に引っ張り出され、自己中心主義者とセコハン人間の功罪を述べるのです。

ロークと同じような生き方をしたのはロークが師事したキャメロンや彫刻家のスティーヴン・マロニーでした。彼らは、自己中心主義者たちでした。そして多くの人たちがセコハン人間でした。特にキャサリンの叔父であり、コラムニストのトゥーイは、オピニオンリーダーであり、ロークを社会的に抹殺しようと画策します。自己犠牲を推奨し利他主義を主張し、マスコミを使って人々を操作します。トゥーイ自身がセコハン人間の代表格でした。

訳者の藤森かよこ氏が「「水源」においては、奴隷を必要としない自由で独立した個人と、奴隷によって支えられる支配者という名の奴隷と、単なる奴隷が、数々の戦いを繰り広げる。「水源」とは、このような政治思想小説である」と言及しています。

一方、恋愛小説の部分では分かりにくかった部分がありました。ロークとドミニクの関係です。二人はお互いに好き同士にも関わらず、全然一緒になろうとせず、最後の最後にやっと一緒になりました。特にドミニクはロークが好きなのに、キーティングと衝撃的に結婚し、その後バナー新聞の社主のゲイル・ワイナンドのこちらも急な求婚に即座に応えてキーティングとの籍から抜いてすぐさまワイナンドとの籍を入れ、彼女の本心がどこにあるのか、全く良くわかりませんでした。謎の美貌の女性という感じ。それでも物語の展開としては色んなことが急展開して面白くはありましたが。

皆それぞれの胸の内にあるその信念なり、信条に沿って、好きに生きたらいいなあと思いました。ロークのように生きたければそれもあり、キーティングのように生きたければそれもあり。何でもアリだよ、と私は思いながら読み進めました。

長編なので時間をじっくりとれるときに読むのがお勧めです。


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naonao

>nice!をいただき、皆様ありがとうございます。
by naonao (2016-09-11 22:44) 

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