漂流 [本]
漂流(角幡唯介著)を読みました。
この本は小説新潮に連載された「ある鮪漁師の漂流」をまとめ「漂流」とタイトルを変更して本になりました。1994年2月に沖縄の漁船第一保栄丸の船長本村実と8人のフィリピン人乗組員が行方不明となり、3月に入って救命筏で漂流した全員がフィリピンの漁師たちに発見され全員無事であったという記事を手掛かりに、角幡が元新聞記者の本領発揮とばかりに様々な取材を行い、鮪漁師という生き方にスポットを当てています。
漂流の末、生き残った船長の本村に話を聞こうと沖縄まで出向く訳ですが、初っ端から出端をくじかれます。本村の奥さんの話では本村船長は助かったあと8年のブランクのあと海に出て、それからまた戻っていないと知らされるのです。
沖縄の宮古島のすぐ近くにある伊良部島の佐良浜出身の本村実の育った環境や、マグロ漁全盛の時代、ダイナマイトをしかけての沈船の解体やダイナマイトでの漁などその背景が示されます。実際に当時本村船長と一緒に乗っていたフィリピンの船員が今もなお現役で仕事をしていることもわかり、船会社の好意でグアムから漁船に乗せもらいもします。そこでフィリピンの船員に話を聞くことは勿論ですが、フィリピンにも行って残りの船員たちにも話を聞きます。
人間が生命にかかわる極限状態を体験したときに、「サードマン現象」の報告がいろんな場面でされているようですが、ここで漂流したフィリピンの乗組員の一人も何度も少女の幻影を見て、自分たちが助かることがわかったと証言していて面白いなあと思いました。
また漁師たちは漁に出てはたくさんのお金を稼ぎ、陸に戻るとそのお金で飲めや歌えの宴会が半端なく、また港には大判振る舞いで買った女性たちがいて、最後には一銭も残らないような派手な生活をしていることも良くわかり、また船を持って経営することも大きな稼ぎになる時もあれば時に大きなリスクを背負っていることも良くわかり、この本には単なる漂流の話にとどまらない漁師たちの生き様や漁業そのものがわかる本でした。実に読みごたえがあり、しかも全く飽きさせることのない文章でグイグイ引き込まれました。やっぱり彼の本は面白いと思いました。
死が隣り合わせにある世界に角幡はとっても興味があるらしい。確かに生きていると実感できるのはそういうことかもしれないというのも何となく理解できます。でもどうかあまり危険な場所に足を踏み入れてそれに飲み込まれないように、そして長く読者を楽しませてくださいと思ってしまいます。
>nice!をいただき、皆様ありがとうございます。
by naonao (2016-09-19 17:15)