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街とその不確かな壁 [本]

村上春樹の「街とその不確かな壁」を読みました。

街とその不確かな壁

街とその不確かな壁

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/04/13
  • メディア: 単行本

久々の村上春樹の長編。読んでいてやはり彼の文体が好きなのだと思いました。とても心地よい。そして精神世界の本で出会うような言葉が所々に出てくるのがやはり好きなのだと思いました。村上春樹の作品はほとんど読んでいますが「羊をめぐる冒険」「ダンス・ダンス・ダンス」「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」が特に好きなので、この「街とその不確かな壁」の第一部が街の中と外で二つの物語がパラレルワールド的に描かれてる感じや、高い壁に囲まれて夢を読むことや一角獣が出てくることなど「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と似てるのでとっても楽しかったです。後書きで著者が書いているのですが「最初に第一部を完成させそれで一応目指していた仕事は完了したと思っていた」とあり、「書き終えて半年あまり原稿を寝かせているうちに、~この物語は更に続くべきだと感じて、第二部第三部に取り掛かった」とありました。そして個人的には第二部第三部がなくても、第一部だけで十分成立すると思いました。でも第二部第三部があるとより話が膨らむし奥行きが出る。そして大きな意味でまた二つの世界が繋がってくるのでそれがまた楽しという感じでした。読めて良かったです。

第一部の内容はざっとこんな感じ。作文コンクールで入賞した私と彼女。17歳と16歳。二人は知り合い月に1,2回デートを重ねる。彼女はデートで高い壁のある街について話す。そこで彼女は図書館で働き、わたしは夢読みをして働いているという。今ある自分は本当の彼女ではなく本当の彼女はその高い壁のある街に住んでる図書館員だという。現実世界でわたしと彼女は何年も手紙のやり取りを続ける。しかしある時彼女から急に手紙も届かなくなる…。もう一つの高い壁のある街の中の世界では、以前彼女が語った通り、彼女が図書館員でわたしは古い夢を夢読みしている。夢読みの役割は人の抱く感情~哀しみ、恐れ、絶望、苦悩、憎しみ…などを鎮め宥めること。門衛がいて時計台に針がついてなく、影を捨て一度入ったら二度と街の外へ出ることができない。仕事の終わりには彼女と一緒に歩いて帰る。でも彼女はわたしのことを覚えていない。ある日自分の影が一緒に逃げようと言ってくる。溜まりの中で死ぬというのは怯えさせる嘘だと影が言う。街は恐怖を手段として用いてると見抜く。しかし私はこの街に留まることにした。外に出ても孤独で幸せになることはないから。自分の影だけを一人脱出させたのだった…。

そして第二部では、実は何故だかわからないうちに私は影と共に高い壁の街の外に出てしまう。会社員として働いていて図書館で働く夢を見てそれを手掛かりに図書館で動き出そうと動き始める。実際図書館の面接に赴くと夢の中で観たベレー帽がその部屋にあり「何かと何かが繋がっている」と私は感じ、その後元図書館長の子易が影を持っていない既に亡くなっていた人(幽霊)だと気づき、半地下にある薪ストーブが壁に囲まれた図書館にあったのとそっくりの薪ストーブであることにも気づく。イエローサブマリンの服を着たサヴァン症候群の少年がある日私に封筒を人づてに渡してきた。その中には高い壁のある街の中の地図が入っていた。少年と少しやりとりをするとその高い壁のある街の中に行きたいので手助けしてほしいと私に頼んでくる。そしてある日少年は失踪しいなくなる。場面が変わり私は川を遡りどんどん若くなる。40代の意識はそのままなのに体だけが若くなる。そこに17歳の私と16歳の彼女がいた。自分の影が消え彼女は「わたしたちは二人とも影に過ぎないのよ」と言う。

第三部。高い壁に囲まれた街にいる私。引き続き夢読みを仕事としている。遠く川の向こうにいるイエローサブマリンの服の少年を見つけるが彼が誰だか思い出せない。一緒に毎日帰ってた彼女は突然一人で帰りたいと言い出す。そしてイエローサブマリンの少年は自分の中へと入り込んできて「夢読みになるためあなたと一体になりたい。ぼくはもともとあなたであり、あなたはもともとぼくなのですから」という。右耳たぶが痛かったが、今度は左耳たぶをかんでひとつになるので認証してほしいと言われ認証する私。夢読みは以前よりも捗る。そして少年は私に「あなたが立ち去るときです」と言う。私が「もう一度自分の影と一緒になるなんて可能なのだろうか?」と疑問を投げかけると少年は「ええ、可能です。あなたが心からそれを望むなら」と言う。私は一緒に帰っていた彼女に「また明日」ではなく「さよなら」を告げた…。

「自分の意思であちらの世界に居残ることに決めたのです。しかし思いに反してこちらの世界に戻ってきてしまいました。まるで強いバネに弾き返されるみたいに」に代表されるようなもの言いがいかにも村上春樹で好きでした。「あなたの心は一番底の部分でその街を出てこちら側に戻ることを求めていたのかもしれない」「もちろん誰にでも起こることではありません。しかしいつかどこかで起こりうることです。強い意思と純粋な思いがあれば」「何かを強く深く信じることができれば進む道はおのずと明らかとなっていく」「考えてみれば多くの物事はそうやって当事者の意図や計画とは無縁に自然に勝手に進行していくものなのかもしれない」「自分の中にある直感を信用して進んでいくしかないのだ」聖書の詩編の言葉「人は吐息のごときもの。その人生はただの過ぎゆく影に過ぎない」…もちろん物語が面白いこともあるけれど、私はこういう文章が読みたくて村上春樹を読んでいるのだなあと思いました。

高い壁の街の外の彼女が夢を見た時にその夢をノートにつけている話が出てくるのですが、私も一時期日記と共に夢日記をつけていたので親近感がありました。夢は現実に呼応するのでその夢解きが楽しく後からこの夢はこの現実を反映していたのだと色々思っていました。今は以前ほど夢を見なくなったので、ノートに書いたり書かなかったりですが。また好きな「パパラギ」の本が出て来たり、ガルシア・マルケスの「コルラの時代の愛」が出て来たり。「コルラの時代の愛」は先日読んだばかりなのでちょっとしたこのシンクロニシティが楽しくなりました(元を正せば半年前見たドラマ「silent」に出てきた若菜晃子さんの著書「旅の断面」「途上の旅」でガルシア・マルケスの「百年の孤独」が出てきて、中国ドラマ「家族の名において」のドラマにもこの「百年の孤独」が出てきたのでこれを機に読み、ガルシア・マルケスの本がもっと読みたいと思って「コルラの時代の愛」も読んだのでした。そしてまたここにこの小説が現れるとは)シンクロするのが大好きな私。好きだからこんなにシンクロするのか。頻繁に出てくるブルーベリーマフィンとブラックコーヒーが食べたくなる小説でもあり、これから買いに走りたい。

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naonao

>nice!をいただき、皆様ありがとうございます。
by naonao (2023-07-01 17:54) 

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