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それでもボクはやってない [日本映画 賞受賞]

それでもボクはやってない

映画公式ページ:http://www.soreboku.jp/index.html

「それでもボクはやってない」見てきました。「Shall we dance?」から11年ぶりの周防正行監督作品。社会問題となってる痴漢冤罪問題を扱っています。

満員電車で痴漢に間違えられ真実を訴えても、警察の取調べで認められずまずは拘置場に勾留。その後検察庁での取調べでも認められずに起訴され裁判へと発展

この映画は怖いと思いました。裁判なんて縁遠いですが(それでも一度友人のアパートの立ち退きの件で付き添いに裁判所に行って、裁判を傍聴したことがあります)この映画では裁判での様子が克明にわかると同時に、日本の刑事裁判制度の抱える問題点が浮き彫りとなっています。

「刑事事件で起訴された場合、裁判での有罪は99.9%と言われている」

つまり、痴漢などで捕まって、本当は自分はしていない、無実であると主張しているにも関わらずそれが認められず刑事裁判になった場合、99.9%は有罪、あんたは痴漢やったでしょう、との判決を受けてしまうという実に怖い話だったのです。痴漢をやっていないからと言ってずっと無実を訴えていても、どうせ裁判になったら負けるのです、という話なのです。

まず最初にたとえ間違いだとしても「痴漢だ」と言って訴えた女子学生が、相当な罪を犯していますが、その子は被害者として自分のことしか考えられず痴漢犯人がその人としか考えられなくなっています。だから証言も自然に自分の都合のいいようなことしか言えなくなってくるのです。それに輪をかけて、裁判での最高責任者の裁判官が両者の言い分を聞くとはいえ(途中で裁判官が代わることもありその場合、今までやってきた裁判中の内容は文面だけを読みそれを判断材料とされます)人の一生を棒に振る決定的な間違った判定を下すことでさらに酷い罪を犯しています。神でもない裁判官にどちらが真実かがわかるのか、それで人を裁けるのか、裁判官という職業がかなり業の深い職業なのではないかと思えました。

映画の中でも出てきたのですが、「裁判で無罪判定を出すのは大変なこと。それは検察庁にたてつくことだし、お上にたてつくこと」なので、自分の出世のため、また保身のためには何の波風を立てない有罪が裁判官にとっても好都合な判定らしいのです。

主人公の痴漢に間違えられた男の子(加瀬亮)は最初の段階で「裁判になると本当に大変だから、痴漢をやってなくてもやったと言って5万円くらい払ってすぐにここから出たほうがいい」と言われます。実際痴漢をした別のサラリーマンが朝捕まって午後にはこの5万円を払って何事もなかったかのように出勤している様子も描かれていました。しかし、主人公はどこまでも「やってない」と言い、丸一年裁判に費やし、勾留場から保釈されるのに200万を出し、そして弁護士料がかかり、証言をはっきりさせる現場検証のビデオまで作り、その全体の費用はどれだけかかったかしれません。その上に想像も絶するほどの精神的な苦痛を味わわなければならないとあっては、何のための裁判なのか、本当に救いがない日本の裁判なのだ、と思いました。もう絶望ですね。

新聞でこの痴漢冤罪裁判のことは知っていましたが、これほど酷い現実があるとは、夢にも思いませんでした。そして真実によって裁かれてないことが、何ともむごい。腹立たしい

主人公が最後に心の中で叫ぶシーンがあります。

「真実は神のみぞ知る、と言うが、それは違うとボクは思う。少なくともボクがその真実を知っている。真実を知ってるのはボクなのだ

映画はシリアスで現代日本の刑事裁判の問題点を浮き彫りにし考えさせられます。途中笑いを誘う部分も数多くあり、秀逸な作品です。役所広司の弁護士役はこんな弁護士がいたらいいなあと思わせ(「the有頂天ホテル」でのホテルマンもこんなホテルマンいいなあと思わせましたけど)また瀬戸朝香のクールな弁護士も、もたいまさこの母親役も良かったです。

2009年に裁判員制度が導入されるので、これを見て裁判のことを考えてみるのもいいと思います。

追記:iTUNESのpostcastsにて、この映画の宣伝してますがあまり宣伝と言う感じでなく、監督が日本各地に行っていろんな話をしてます。無料見れます)http://phobos.apple.com/WebObjects/MZStore.woa/wa/viewPodcast?id=209106330


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はるかぜ

考えさせられますね。真実は自分のみぞ知る!最終的には満員電車には乗らない生活しかなさそうですネ。山口県には新しい刑務所が出きる(た?)そうで、犯罪の多さを物語っています。その中にも冤罪の方もいるかもしれませんネ。痴漢で一生を棒にふるのは御免です。しかも冤罪で・・・これも神が与えた試練なのでしょうか?
by はるかぜ (2007-01-13 00:14) 

aya

私も裁判に関しては知識も経験もありませんが、
naonaoさんの記事を読んでいて本当に恐いなと思いました。
冤罪でそれだけの代償を払った上に、メンツで人生を決められては
やりきれないですね。
この映画、見てみたいと思います。
先日、the有頂天ホテルも調度見たところなので、
役所さんにも注目してみます☆
by aya (2007-01-13 02:31) 

Hiji-kata

手間と時間をかけた
心のこもった記事に感動しました。
ナイス レビューです。
ありがとう。
by Hiji-kata (2007-01-13 04:22) 

naonao

>はるかぜさん、ありがとうございます。
私自身自分のブログでカルマの話をアップしたばかりなので、これもカルマなのか?あるいは自ら進んで選び取った試練なのか?一体何なのか?考えてしまいますね。

>ayaさん、ありがとうございます。
裁判のことを考える契機になる点で本当にこの映画はお勧めだと思います。是非ご覧になってください。

>土方歳三さん、ありがとうございます。
感動していただくなんて嬉しいです。こちらこそありがとうございます。
by naonao (2007-01-13 11:55) 

降龍十八章

冤罪については、私も記事を書きました。
日本の裁判は、冤罪が多いらしいですね。冤罪以前に、例え犯人だったとしても、証拠もなしに有罪にしてはいけません。
また、植草教授にように、(女性には失礼ですが)たかが痴漢で、個人を社会的に抹殺するのは、いかがなものかと思います。
by 降龍十八章 (2007-01-14 00:02) 

Traveler

東京では15日の昼に「それでもボクはやってない」のリサーチのきっかけとなった本当の痴漢えん罪事件のドキュメンタリーが放送されますよ。この映画のHPにも関連記事が沢山のっているので見てください。http://www.soreboku.jp/
ポッドキャストでは、監督自らがこの映画について語っています。
by Traveler (2007-01-14 00:35) 

naonao

>降龍十八掌さん、ありがとうございます。後で私も冤罪に関する降龍十八掌さんの記事を拝見させていただきます。たかが痴漢云々・・・は、ちょっといただけないのですが、冤罪は本当に困ったものだと思いました。

>Travelerさん、ありがとうございます。15日のテレビ見れたら見てみたいと思います。また監督の語りなどの情報もありがとうございます。こちらは知ってましたので追記にて載せました。
by naonao (2007-01-14 13:00) 

ジャッキー・イエロー

>たかが痴漢

こういうことを言うヤツがいる限り痴漢という性犯罪は無くならないでしょうね。
冤罪怖い冤罪怖いと騒ぐのも結構ですが、それと同時に「痴漢は悪質極まりない性犯罪である」という認識をもっと浸透させるべきではないでしょうか?

この映画を見て冤罪の恐ろしさを知ることや、日本の司法制度に疑問を持つことは大変意義のあることだと思います。そしてそれに対して批判を唱えることは何の問題もないですし、じゃんじゃんやるべきだと思います。

ただ、今後痴漢にあった女が被害を訴えた時、「冤罪だ冤罪だ!」と何の根拠もなく騒ぎ立てる、冤罪被害者の尻馬に乗って女を叩きたいだけのバカ男や、「たかが痴漢ごときで」だの「痴漢されなくなったら女として終わりだろ」だの平然と痴漢被害者をセカンドレイプするようなクソバカ男が増えないことを切に願います。

それから、冤罪は痴漢に限らず全ての事件で起こりうることです。例えば松本サリン事件を題材にした『日本の黒い夏』という映画がありますが、痴漢以外の冤罪の実態を知るためにも、この映画と共にぜひこちらもご覧になってみてください。

少々きつい口調になってしまったことお詫びいたします。
ここに書いたことはnaonao様を指して書いたことではありませんので、誤解無きようお願いいたします。
長文、失礼いたしました。
by ジャッキー・イエロー (2007-01-28 23:44) 

naonao

>ジャッキー・イエローさん、アクセスありがとうございます。
「たかが痴漢」は私もいただけないと先にコメントさせていただきました。
私も女性なのでこんな暴言は許せません。
ただこの映画は本当にやってない人が有罪を受けてしまうという現実に起きていることがテーマですので、それを契機に裁判に興味を持つには大変よくできた映画なのだと思いました。もちろんジャッキーさんのコメントが私に対しての怒りでないことは百も承知です。他の映画をあげていただきありがとうございます。こちらも探してみたいと思います。
by naonao (2007-01-29 17:02) 

つぐみ

nice&コメントありがとうございました。
裁判なんて遠い存在でしたが裁判員制度も始まることですし、もう少し近い存在にしないといけないですね。
その1歩としてこの映画はとても参考になりました。
by つぐみ (2007-01-30 22:15) 

naonao

>つぐみさん、訪問ありがとうございます。
本当この映画は裁判を考えるきっかけになり、皆に見て考えてもらいたい映画ですね。いい映画でしたね。
by naonao (2007-01-31 22:40) 

流星☆彡

こちらの記事・コメント共に、とても参考&勉強に なりました。
女の子を持つ母親の目線で観ていると、これが 男の子の お母様
だったら ?!…とか、置かれた立場によって 感想も変わるのでは ?!…と
思える展開でしたね。
当方記事 TBさせて下さいマセ!m(__)m
by 流星☆彡 (2007-02-07 02:26) 

naonao

>流星☆彡 さん、こんばんは。
TBありがとうございます。この映画はどちらの側にも寄りすぎず事実をはっきり浮き彫りにされてるのですごくいい映画ですよね!!
by naonao (2007-02-07 21:41) 

naonao

>那由多さん、nice!ありがとうございます。
by naonao (2007-02-09 22:40) 

naonao

>mini-takさん、nice!ありがとうございます。
by naonao (2007-02-15 11:28) 

チヨロギ

こんにちは。ご訪問をありがとうございました。
いじめ問題や不二家などの不祥事を見ていても同じことを感じますが、冤罪事件という過ちの責任を個人(被害者、刑事、検事、判事など)に負わせていては、何も解決しないという気がします。
その点、この映画には日本の制度や構造の問題がていねいに描かれていて、監督の視野の広さと問題意識がとてもよく伝わってきました。いい映画でしたね。
naonaoさんの熱いレビュー、とても参考になりました。
TBさせていただきましたので、よろしくお願いいたします。
by チヨロギ (2007-02-21 11:11) 

naonao

>チヨロギさん、こんばんは。
TBこちらこそありがとうございました。
本当いい映画でしたね!!この事実を皆に知ってもらいたいです。
by naonao (2007-02-21 22:17) 

naonao

>Heidiさん、nice!ありがとうございます。
by naonao (2007-03-02 22:28) 

naonao

>jediokiさん、nice!ありがとうございます。
by naonao (2007-05-20 21:57) 

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