マチネの終わりに・日蝕・一月物語・空白を満たしなさい [本]
ここ何か月かで読んでた本です。
まず平野啓一郎の「マチネの終わりに」を読みました。私にとって平野啓一郎の小説は初めてです。
結構スラスラと読め、ストーリーの中に入ることができました。
有名クラッシックギターリスト蒔野と国際ジャーナリスト洋子の40歳の恋愛。たった3回出会っただけなのに深く愛した二人。予期せぬ出来事が重なって、すれ違い、誤解し、そのまま時が流れ、お互い結婚し子供を授かり…と違う人生を歩み、また彼の昼のコンサート、マチネの後、再会することで終わる物語。
蒔野の妻となった仕打ちがとっても許せないと思いました。蒔野になりすまし、洋子に別れのメールを送ったことで蒔野と洋子は別れてしまったのですから。やっかいなことに洋子はイラクから戻ってPSTDに苦しめられ、蒔野は恩師が病院に運ばれ、自分自身はキャリアのスランプに陥っているときと、お互い危機的状態でした。
でも人生そういうものだなあと感慨深かったです。著者によるとこの物語は本当のことを土台にしていると。
さて、再会で終わるこの物語。本当はこの先が知りたかった。出会ってから既に6年の年月が経ち、洋子は3年で離婚し一人で子供を育てている。蒔野には生まれたばかりの子供がいて、妻もいる。妻からのちに過ちを告白されてもいる。さて、どうなるんだろう。この先こそが最も気になるところでした。続編書いてくれないかなあと思います。
彼が大学生の時に書いて芥川賞を受賞したデビュー作「日蝕」。「三島由紀夫の再来」とまで騒がれたとは知りませんでした。漢字が結構難しいものが使われ文章自体も読みづらいと感じ、途中で止めようかと一度思ったのですが、まあ何とか読み進めていたら意外にもだんだんと読めあっという間に読み終えてしまいました。三島由紀夫のほうがもっと読みやすいけど、確かに言葉遣いが巧みでそのうまさが似ているのかもしれません。内容は15世紀の南仏で神学者が目にした錬金術、そして錬金術者に興味をもってついて行ったら森の中の鍾乳洞らしきところで両性具有者を目撃。そのあと村に巨人が現れ、その両性具有者の魔女狩りが行われ、ある種の恍惚状態を経験するというもの。宗教と性的なものが描かれその昇華がテーマでした。同じ錬金術の話ならパウロ・コエーリョの「アルケミスト」の話のほうが楽しかったなあ。
「一月物語」夢と現が交錯する物語。
まるでおとぎ話で、なるほどこちらの物語のほうが三島を思い出させる感じでした。特に「春の雪」「豊穣の海」などを含む4部作を。また芥川龍之介の数々のお話を。そして荘子の胡蝶の夢を思い出させました。日本語が美しく、物語も好きだった。
山中で毒蛇に襲われ気がつくと老僧に助けられていた青年が、滞在中美しい女性の夢を見続け彼女に恋してしまう。離れの小屋には老婆がいるので行かないようにと言われていたが、何となく行ってしまうとそこには夢で見ていた女がいた。老僧に下山するよう言われ旅館で傷を癒していると女将からその女は美しい母親から生まれた蛇の子でその女の目は人を殺めるのだという話を聞く。蝶に誘われながらその女に会いに行き、お互いに愛を告白。その愛が成就すると女は死に、男は蝶になっているというお話。なかなか良かった。
「空白を満たしなさい」
亡くなった主人公が3年後に生き返ったらどうなっていたか?自殺をしていないのに自殺で亡くなったと言われていた。そして何となく生き返っても歓迎されず、そのあれこれが書かれています。そして最後はまた生き返った人たちが、次々に亡くなっていくというニュースも飛び込み、どうなる主人公!?という話。
死のことを考えさせられます。また分人という独特な考え方も。分人とは…、人がいろんな顔を持ち、見せている顔が違い、人付き合いの中でキャラを変えている。だから一人の人が「分人」という様々な顔を持っているものとして幸福も分人で考えるべき。幸福は個人という単位で考えるべきではない、というもの。確かにいろんな顔があってそれでいいなあと思えました。分人という考え方をすれば、嫌な分人を切り離すことで自殺するまでには及ばなくなる。すごく合理的だし、とってもすっきりする考え方だと思いました。人が色んな顔を持ち、人に対して見せる顔が違うという言葉はBilly JoelのStrangerの詩を思い出させもしました。
しばらく平野啓一郎の本にチャレンジしていこうと思ってます。
>nice!をいただき、皆様ありがとうございます。
by naonao (2020-08-14 23:48)