極夜行前 [本]
「極夜行」に続いて、その極夜行の冒険する前の準備段階を書いた「極夜行前」を読みました。
角幡さんの文章はやはり引き付けられ、一年ぶりに読んだ彼の文章はやはり好きだなあと思いました。もっといろいろと出版してほしいと思ってしまいました。
本番の「極夜行」もすごかったけれど、準備段階にある「極夜行前」もなかなかすごかったし、角幡節全開で楽しかったです。食料や燃料の備蓄のデポも自分で運んで用意する。GPSを使わない、その代り昔ながらの天測による方法を身につけ、つまりは六分機を使えるように専門家のところに足を運びいろいろ教えてもらい、自分でも試行錯誤しながらマスターする。犬との旅を決行する。白クマよりも恐ろしいセイウチの恐ろしさを身を持って体験したり、氷が道を阻んでカヤックで移動ができずその時を待つ経験を積んだり、ジャコウウシ、そして主にウサギを標的として銃で狙い食料にするその腕を磨いたり、アッパリアス(鳥)を仕留めて干物に加工したり、修理しやすい木材を選び自らそりを作ったり、イグルー(かまくら)を習って作ったり…。準備段階からすべて自らがより深く関わっての本番への冒険へと続く感じがよくわかりました。こういった準備なしにはやはりとてもでないけれどこんな大冒険はできないでしょう。イギリスの探検隊が残したデポがグラノーラバーくらいしかなくてさすがイギリス人の食事だとガッカリしたり、寝ている間にそりが流され水の中に入ってそりを回収に行くときウエットスーツの社会の窓が開けっぱなしで、下半身までびしょびしょになった等、結構笑ってしまうエピソードがありました。本当は相当な危機な場面なのですが。
この準備段階で、自分がやりたいことが最果ての場所への冒険であると確認し、はっきりしなかったルートも決まり、色んな人のお陰もあり準備万端となって何とか本番へとそのまま行きそうでしたが、グリーンランドのビザ切れで、一年間もの間を開けなければならない羽目になるというのが、また最後の落ちでした。
何だか人生ってこんな感じだなあと思いました。真剣に物事を始めたら次から次へとやらなければならない問題が出てきて、でもその間に協力者が現れ、必要な情報なりなんなりを与えてくれる。それはまるでそちらへと導いてくれるように。自分の目的も漠然としていたものからはっきりとしたものが見えてくる。それでも時には順調にいかず横やりが入る。人生そのもの。本当に面白かったです。
吹上奇譚 神様のお恵み 冥途のお客 [本]
最近読んでいた本です。
オカルトっぽいホラーっぽい要素が入った話。著者はこういう話を書くのが夢だったみたいだけど、私にはちょっと不満。こんな要素はいらないなあと思った。このシリーズ続くんだろうか?でも彼女の作品に共通する気持ちが優しくなれる雰囲気みたいなものは失われてはいなかった。今回の作品でちょっと違和感を感じたけれど、それでもまた読み続けるんだろうなあ、吉本ばななを。
それぞれに発売されたのが去年なので佐藤愛子の新刊なのだと思ったら違いました。それぞれ15年前、26年前、9年前に既に刊行されたものを復刊したものでありました。内容は上2冊が幽霊の話にまつわることで、まだそんなに売れていなかった江原啓之や美輪明宏に佐藤愛子が相談したりして、また亡くなった遠藤周作が出てきたりします。江原啓之と佐藤愛子が電話中に、亡くなっている遠藤周作が佐藤愛子の家に現れ、生前二人の間で早く死んだ人はあの世が本当にあるのかないのかを生きているものに知らせるという約束をしていたのですが、早く死んだ遠藤周作が佐藤愛子に本当にあの世はあったと、江原啓之を通じて伝えてきたのです。何だかとっても楽しくなるエピソードでした。実は私も母と同じような約束をしたことがあり、母はもう30年以上も前に亡くなっていますが、それを知らせには全然来てくれていないなあと思い出しました。でもやはり江原啓之のような人が身近にいない限りはそれを知ることは難しいのかもしれません。
また沖縄グラスの中に入っていた悪霊のために具合が悪くなる話が出てくるのですが、沖縄グラスは昔のガラスを砕いて再利用するために戦時中のものも紛れていることもあるそうです。私もいつだったかとってもきれいな沖縄グラスの器を頂いたのですが、1回使っただけですぐに壊してしまい大変もったいないことをしたと思っていたのですが、もしかしたら却ってそれが良かったのかもなあと思ったりしました。
一番下の本は、佐藤愛子が50歳ごろから70歳ごろに書いたエッセイを編集者がまとめたもので、負けん気の強い佐藤愛子節が読み取れます。
年配者向けを意識してなのか、本の活字がとっても大きくてそれぞれあっという間に読めてしまいました。
貧困大国アメリカ [本]
最近読んでいた本です。
貧困層は更なる貧困層へ。中間層は貧困層へと転落し、急激に社会は二極化へと進む。1パーセントの富裕層たちが99パーセントの貧困者を食い物にする。そのシステムが社会の中に組み込まれている。
怖い本でした。ジャーナリスト堤未果さんの本は読み応え十分でした。
例えばフードスタンプをもらう貧困層は安い加工食品しか買えないため、ますます肥満となります。そして貧困層が増えれば増えるほど寡占状態の大手何社かが潤い、ぼろもうけををするシステムができあがっています。
医療業界も同じ。保険会社と薬業界のぼろもうけシステム。医療費が高くて払えない人たち、また医療費を払っていても指定された病院と治療しか受けられないことがままあり、一度病気になっただけでローン地獄にはまる人たちがたくさんいます。医師たちもまた効率主義に追い詰められ廃業せずにはいられない医師が出てきています。
世界中のワーキングプアを集めて民営化された戦争が行われていたともいいます。フィリピン、ネパール、インドから良い稼ぎになると集められてい来た人々。しかし実際現地(戦場)に派遣されると医療サービスもなく動物以下の扱いを受け、既に仲介業者に大金を支払ってきているため帰国するにも帰国できません。それぞれの国がアメリカ国防省に訴えても、派遣会社が何層にも複雑になっているためなかなか調査には至らなったといいます。(しかしここの派遣会社の大元は、ブッシュ政権時代の副大統領チェイニーがCEOをしていたハリバートン社であったと本書では言っています)
効率主義と拝金主義が相まって、企業はますます大きくなり、国を越えてグローバル化し、多国籍企業となります。その多国籍企業の1パーセントが残り99パーセントをこれでもかと利益をむしり取るのです。
それはもはや公的事業であるはずのものを民営化することでますますひどくなっています。
ハリケーンカトリーナを襲った貧しい南部地域は学校までが民営化となり、貧しい子供たちが学校に通うことができなくなる事態にまでなりました。経済効率の名のもとに、教育の平等な機会まで奪われました。
刑務所も民営化されています。囚人は入るときから既に借金づけ。訴訟費用や罰金などに加え、法廷手数料やら囚人基金の積立金など様々な請求がなされるという。そして多くの企業が法外な安い賃金で囚人を使い、働かせています。そして多くの利益を得ているのです。
借金づけの人々は囚人だけではありません。学生たちも同じです。学費が高くて払えないため学資ローンを組みますが、どんなに働いても安い賃金ではローンを返済できません。兵士へのリクルートもありますが、これもまた地獄です。十分な学費がでないことが後からわかるため、無理なアルバイトを重ねて結局払えず大学は諦めます。また軍隊に何とかずっと入隊していても、戦地に送られ負傷し、精神的にも病んで帰国することもままあり、軍病院で治療したくても治療は10カ月から1年以上待たされることも多いといいます。
他にも農場が巨額の資金に買い取られ、ほとんどの利益が企業に吸い取られる話。またイラク、インド、アルゼンチン、ハイチの中小農家で行われた遺伝子組み換え食品への転換によって中小農家が苦しくなり自殺にまで追いやられる話。消防署、警察署、公園など公的なものが民営化することでなくなり、世界一危険な街になったデトロイトの話。政治もマスコミもすべて巨大資本に買われてしまい、立法府までも企業の言いなりで法までも企業のいいようになる現状の話など、本当に酷い話がたくさん載っていました。
ただ1パーセントに対して99パーセントも黙ってはいません。ある時大手銀行バンク・オヴ・アメリカから預金を地元の銀行へ移し替えようとフェイスブックで訴えた匿名の人がいて、7万人が賛同し80億ドルものお金が預金先を変えるという運動が展開したといいます。国民の税金で助けられたバンク・オヴ・アメリカが一方的に預金額2万ドル以下の顧客に月額5ドルの使用料を課すということへの抗議であったというのです。また企業献金を一切受け取らない議員候補者を立てたオリーブの木連合は、大企業の政治支配を止めることに一役買ったといいます。
最後の話が少し希望に思えホッとしました。
しかしこの多国籍企業による莫大な富、黙っていても儲かるこの仕組みを何とか解体したい。そのためには上に書いた匿名の人が行ったような、99パーセントの人が一致団結して独占や寡占の企業に対して大いにものを申していくしかないのだなあと思います。